穏やかな日差しが街を包む昼下がり。
今日は、どのようにして過ごすか。
(そういえば、向こうのお店はまだ覗いたことがありませんでしたね)
そのようなことに思いを馳せるシアーシャの耳に、子どもたちの笑い声が届く。
どうやら、街の広場で子どもたちが集まっているらしい。
そしてその中心には、冒険者クラン『ワダツミ』のベイツとグロウがいた。
「めでたしめでたし! 今日はおしまいだ!」
「えー!」
特徴的な絵が描かれた紙をめくり終わったベイツが言うと、子どもたちがこぞって不満気な声を漏らす。
「そんな声出すなって。また今度読んでやるから。な?」
「ほんと!? 約束だよ!」
「ああ、もちろんだ。んじゃまたな!」
「うん! またね、おじさんたち!」
子どもたちの声が揃って広がり、人だかりは次第に散っていった。
「ベイツさん、グロウさん」
その様子が気になったシアーシャは、後片付けをしている二人へと、声をかけた。
「おお! シアーシャちゃんじゃねぇか!」
ベイツがにこやかに手を振る。
「何してるんですか?」
「子どもたちに紙芝居を読んでたんだよ」
「たまに、こうやって、地域の子どもたちに、読んでる」
「へぇ、これは……巨大魔獣のお話ですか!?」
シアーシャの目がキラキラと輝き、紙芝居を食い入るように見る。
「お、興味あるかい? 森で暴れる魔獣を冒険者たちが討伐する話だ。まあ、実際よりちょーっと大げさに書いてはいるが……」
「私にも聞かせてください!」
期待に胸を弾ませた声で言うシアーシャに、二人は嬉しそうに目を合わせる。
「そこまで言われちゃあ、読まねぇ訳にはいかねぇな?」
「お客様の、ため」
ベイツはシアーシャを紙芝居の前に座らせると、木枠を軽く叩き、朗々と声を響かせる。
「よーし、それじゃあ始めるぞ!」
その声と共にグロウが一枚目をめくる。
するとそこには、鬱蒼とした森を踏み荒らす巨大な魔獣の姿が描かれていた。
「この魔獣はそれはそれは凶暴でな。森で暴れて木々を薙ぎ倒す、なんてのは可愛いもんで、こいつの本当に恐ろしいところはここからだ」
ベイツの緊迫感を煽るような語りに、シアーシャはワクワクしながらもゴクリと息を飲んだ。そして、ゆっくりとページが進みベイツが続ける。
「この魔獣は森の動物たちを次々に喰らい、逃げ場を失った動物たちは、やがて森から姿を消していった。
そしてついには人間の村や街へと降りてきて、人間まで襲うようになっちまったんだ。
この魔獣に襲われて、住民がまるごと消えちまった村もあるぐらいでな。
あの魔獣に会ったら生きては帰ってこれねぇ――そんな話が広まるくらい、恐ろしい魔獣だったって訳さ。
だがな……ここで冒険者たちの登場だ!」
その声と共に現れた絵には魔獣と戦う冒険者たちの姿が描かれている。
五等級の冒険者パーティーのリーダーで、前衛の大剣を持つ冒険者が先陣を切って魔獣に斬りかかり、盾を構えた仲間がすかさず逆側から攻撃を仕掛ける。
後衛では魔術師が精妙な水魔術で援護し、弓使いが的確に矢を放って魔獣の動きを封じる。
そんな熾烈な戦いぶりを、ベイツはまるでそこにいるかのように手振り身振りを交えて語っていく。
「魔獣の攻撃に苦戦する冒険者たち!」
「あの」
「ん? どうしたんだ、シアーシャちゃん」
「こんなの、ぺしゃんってしちゃえばいいんじゃないですか?」
苦戦する理由がわからないといった様子のシアーシャに、言葉が詰まるベイツ。
「あれ? どうかしましたか?」
不思議そうに首を傾げる彼女に、ベイツは慌てて誤魔化しつつ、なんとか紙芝居は終盤へと進んだ。
そして、最後の一枚がめくられる。
「こうして冒険者たちは魔獣を倒し、森には平和が戻りました。めでたしめでたし!」
ベイツが締めの言葉を言うと、シアーシャは嬉しそうに拍手を送った。
「紙芝居って面白いんですね! ワクワクしました!」
「そ、そうか! そう言ってもらえるとオジサンたちも頑張った甲斐がある! ちなみにどの辺がシアーシャちゃんは好きだった?」
「うーん。やっぱり魔獣との戦いでしょうか。自分の戦い方とは全然違っていて新鮮でした。」
「まあ、まだ経験が浅いとこんな大物と戦うことは――」
「だって、こんなに重たそうなんですよ?」
絵の魔獣を指先で軽く叩きながら続ける。
「体勢を崩させれば、一撃で潰せると思うんです。
ほら、こうして…土魔術で足場を崩して…ずどーん、からの、ぺしゃん」
そう言って、迷いなく手刀を振り下ろした。
まるで自分なら容易に同じことができると言わんばかりに。
二人は返す言葉を失い、視線を交わす。
「……」
「……」
微妙に引きつった笑顔のまま、ベイツがなんとか声を絞り、
「ま、まぁ……楽しんでくれたなら、よかったよ!」
「う、うん。楽しめるのが、一番」
グロウもぎこちなく同意する。
「それじゃあ私、買い物の続きをしてきますね! 紙芝居、ありがとうございました!」
軽やかにお辞儀をして、シアーシャは街の方へ戻っていった。
その背が消えるまで見送ったあと、ベイツがぽつりとつぶやく。
「……なぁ、グロウ」
「なんだ?」
「シアーシャちゃんには……逆らわない方が良さそうだな」
「……ああ。そう、だな」
二人は互いに同じことを感じたのだと思い、苦笑しながら紙芝居を閉じた。
CAST COMMENT
原作
超法規的かえる
Comment
原作者の超法規的かえると申します。
自分好みの小説が中々見つからないなら書いてしまえ!と始めたこの作品ですが、想像していたよりも多くの読者様に反響をいただき、この度アニメ化となりました。
2m近いマッチョでハードな、とても自己投影などできない類の大男が主人公の小説なんてこのご時世流行らないと思っていたのですが……分からないものですね。
こんな趣味全開の本作にお声がけいただいた制作陣の方々、そしてここまで支えて下さった読者様たちに最大級の感謝を。
ジグとシアーシャ。二人が織りなす物語をぜひお楽しみください。
キャラクター原案
叶世べんち
Comment
アニメ化おめでとうございます!
作者の超法規的かえる先生、その他関係者の皆様に心より感謝申し上げます。
自分がデザインしたキャラクター達がアニメになって動くのを観られるのが今からとても楽しみです。
みんな魅力的なキャラ達ですがやはりジグさんとシアーシャさんの活躍に期待しています!
監督
江崎慎平
Comment
『魔女と傭兵』を映像化するにあたり、アプローチの方向性は、コミカルなものも含めいくつかあったように思います。
ただ自然と私たちは、ジグとシアーシャがいる世界が本当にあるような気になっており、大真面目に彼らの足跡を辿るというやり方をしていました。
彼らの旅はそれなりに長いですが、見た人の心に少しでも残ってくれれば嬉しいです。
ジグ=クレイン役
坂 泰斗
Comment
ジグ=クレイン役を務めさせて頂きます、坂 泰斗です。
傭兵として戦場を渡り歩き合理的に生き残る術を身につけてきたジグと、謂れのない敵意を向けられ長い年月を独りで隠れながら生きてきたシアーシャ。
そんな2人の物語は壮絶な「殺し合い」から始まります。
『魔女と傭兵』、英雄などでは無いはみ出し者の2人が織りなす、ダークで重厚、静かで何処か儚げな物語を是非お楽しみに。
シアーシャ役
早見沙織
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シアーシャの声を担当させていただきます。
最初に原作に触れたとき、重厚さ、繊細さ、かつふわっと抜け感もある内容に惹きこまれました。
収録では、丁寧に、緻密に、それぞれのキャラクターの表現を重ねていく大変濃密な時間を過ごしています。
ひとつひとつ集中して、楽しみながら臨んでいきたいと思っております。
ジグとシアーシャ、2人の関係がどのように変化していくのか、ご注目いただけると嬉しいです。
アニメーションで描かれる『魔女と傭兵』の世界を、みなさまぜひご堪能ください。